「マルボローの主題による変奏曲」のマルボローって何?
フェルナンド・ソルの変奏曲といえば、「モーツァルトの魔笛の主題による変奏曲」が有名ですが、その6年後の1827年に作られた「マルボローの主題による変奏曲」もなかなか面白い曲です。短調の序奏から始まり、明るい主題、それに続く5つの変奏。キャッチーなメロディーがソルの手にかかると、格調高い音楽に変わっていくところがすばらしい。
ところで、この曲の主題になっている「マルボロー」はどんな曲でしょうか?
1.「マルボロー」って何?
マルボローはフランスの古い歌で、原題は Malbrough s'en va-t-en guerre(仏語)、邦題は「マルボローは戦場に行った」です。簡単で覚えやすいメロディーで、フランスでは子どもの時に習うようです。
では、戦場に行ったマルボローって誰なんでしょうか?
2.マルボローって誰?
マルボローは実在のイギリス人公爵、マールバラ公ジョン・チャーチルという人です。スペイン継承戦争で活躍しました。1709年の戦いで戦死したという情報が流れましたが、それは誤報で実際はケガをしただけでした。
マルボロー、マルブルー、マールボロ、マールバラ、いろいろな表記があります。英語だとMarlborough、日本語だとマールバラ公。フランス語だとMalbrouckと表記されますが、歌の中ではいろいろ混ざった結果、Malbroughになっています。英語とフランス語の発音の違いからこうなったんですね。そこにさらに日本語が絡んでくるからややこしい。ここではマルボローで統一します。
3.「マルボローは戦場に行った」歌詞と背景
この歌の時代背景として、イギリス vs フランスの戦いがあります。
歌詞の内容はこんな感じ。
「マルボローは戦場に行ってしまった。奥様はご主人を待ってる。でも、いつまでも帰ってこない。すると小姓が黒い服を着て現れ、ご主人が戦死したという知らせを伝える」その後は、亡くなった後、埋葬される様子などが延々と歌われています。
明るいメロディーに乗ったこの歌詞に違和感を覚えます。それもそのはずで、実は、この歌は奥様側の悲しみの歌ではないからです。イギリス軍のマルボローが戦死したという誤報が流れ、フランス軍が敵をからかうために歌ったと言われています。なんともやりきれないですが、時は18世紀初頭。戦争に明け暮れていた時代です…
この曲が知られるようになったのはもっと後。ルイ16世と王妃マリーアントワネットの王子の乳母が、ある日、自分の故郷で覚えたこの歌を口ずさんでいました。それを聞いた王妃がとても気に入り、教えてもらい歌うようになりました。その歌を宮廷人たちがまねして、広く世間に知られるようになったということです。
それにしても、子どもが口ずさむような歌詞ではないと思うのですが。特に今の時代は。平和を祈るばかりです。